「菌」と聞くとどんなイメージを持ちますか?
感染症の流行に敏感な昨今、菌やウイルスに対してネガティブなイメージを持ってしまいますが、必ずしも「菌=病気」というわけではありません。私たちに病や体調不良をもたらすのも菌ですが、身体を守ってくれているのも菌です。
今回は、人と菌との関係を考えてみます。
人と菌の関係
常在菌は基本的に無害で、むしろ肌に潤いを与える物質の分泌や、肌荒れを起こす菌を退治する物質を産生し、肌を守る大切な役割を担っています。
食中毒や病をもたらす菌の殺菌のためには手洗いや消毒はもちろん必要ですが、あまりに頻繁な洗浄や消毒は常在菌の数をも減らします。常在菌の減少によって、肌荒れが起こり病原体の侵入や温床になる可能性もあるので、消毒だけでなく肌ケアも重要だといえます。
また、免疫に関わる細胞の6割以上は腸に存在しており、腸は体内で最大の免疫器官と言われています。免疫を支えているのがまさしく腸内細菌であり、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(善玉、悪玉どちらでもない菌)あわせてその種類は数百種類以上、個数は100兆個にも上ります。
このように、人にとって細菌は健康と大きく関わりを持ち、共生関係にあるのです。
菌を摂取して成長する動物
コアラの赤ちゃんは、生まれるとすぐ土をなめたり、お母さんの便をなめたりします。これは、土の中やお母さんの便の中にある細菌類をお腹に入れないと、コアラの餌であるユーカリという毒のある葉を無毒化できないからです。
無毒化する酵素を取り入れ、自分の腸内細菌を増やすための本能的行動といわれています。
パンダの赤ちゃんも同じです。パンダの体には餌である固い笹の葉を消化する酵素がないために、生まれるとすぐに土をなめたり、お母さんの便をなめて細菌をお腹に入れます。腸内細菌が笹の葉を消化してくれるのです。
赤ちゃんだけでなく、成長した動物も細菌を摂取するために土を食べるといわれています。
ウサギは下痢をすると、元気なときの自分の便を食べます。腸を元気に保ってくれている細菌を腸の中に取り入れて腸内環境を整える目的があるとされています。
牛も泥のついた食物を食べることで、ときには土を食べることで土壌にいる細菌を補給しています。
動物は本能的に自分の身体の中に足りない菌を補いながら生きる力があるのです。
人間と腸内細菌
現代では除菌・滅菌文化が浸透し、菌から遠ざかる生活様式に変化しています。
食生活でも欧米化が進み、腸内細菌の中の善玉菌の餌になる食物繊維の摂取量が減少しています。
保存料や抗生物質を含んだ食品の摂取、アルコールの摂取、運動不足やストレスのある生活習慣で腸内細菌のバランスが崩れやすい環境にいるといえます。
もちろん腸内細菌の重要性は、様々な健康食品のPRでうたわれていることもあり広く知られるようになりましたが、一部の乳酸菌やビフィズス菌の摂取だけでは腸内環境は整わないことはあまり知られていません。
腸内フローラと多様性
体にいい影響をもたらす有用菌(善玉菌)、悪い影響をもたらす有害菌(悪玉菌)、どちらにも属さない日和見菌。
理想的なバランスは2:1:7とされています。善玉菌というと一番聞きなじみのあるのがビフィズス菌や乳酸菌ではないでしょうか。むしろこれらを摂っていれば良いと思っている方も多いようです。
乳酸菌は主に糖を分解する能力を持っていますが、私たちは糖だけを摂っているわけではありません。
食べ物に含まれるタンパク質、ミネラルなどは、他の多種多様な腸内細菌群によって分解されているのです。つまり、腸内環境、そして体の健康のためには多種多様な菌をバランス良く摂取することが最も大切なのです。
病気の人やアレルギーを持っている人は腸内フローラの多様性が低下(腸内細菌の種類が減少)しており、さらに悪玉菌が優勢だったという研究結果もあります。
多様性とバランスを意識した腸活がより重要です。