新型コロナウィルスの流行を経て、現在は手指のアルコール消毒が習慣化されています。
ウイルスや細菌=悪という考えがより進んでいるように感じます。
病原性微生物が人に感染症を引き起こすことは事実ですが、病気の原因となる微生物は、全体の中ではごく少数なのです。むしろ古来より人と共生してきた微生物は多く、私たちの環境はびっしりとたくさんの微生物に覆われています。
共生する常在細菌
体の表面、口から腸までの消化管、膀胱など一人につき100兆個以上もの常在細菌が暮らしていて、病原性の微生物から私たちを守り、体の働きをサポートしてくれています。
常在細菌の例
腸内細菌
乳酸菌やビフィズス菌、大腸菌などが腸内の常在細菌の一種です。
腸内には100兆個の細菌がいるといわれ、これら膨大な数の常在菌は善玉菌・悪玉菌・日和見菌と種類分けされています。善玉菌は身体の健康維持のためにいるのですが、善玉菌でも現れる場所によっては外を及ぼす場合があるので、あくまでいるべき場所にいることで健康バランスが保てていることを知っておくべきでしょう。
ビフィズス菌は腸内細菌として有名ですが、皮膚上にはいません。常在菌は住むべき場所がきっちりすみ分けされています。
皮膚常在菌
健康状態や年齢によって変動しますが、多いところで1平方センチメートルに10万個以上もの菌が存在しています。
皮脂を分解して抗菌作用を持つ脂肪酸と潤いを保つグリセリンを作り、かつ病原菌が増えるのを防ぐために弱酸性に保ってくれるのがアクネ菌や表皮ブドウ球菌です。ニキビの大敵としてみられがちなアクネ菌ですが、過剰な皮脂や、皮脂が毛穴に詰まることでニキビを引き起こすのであって、常在菌としての働きを無視して殺菌してしまうと、肌を健康な状態に保つバランスをも崩してしまいます。
キレイ社会の落とし穴
腸内細菌も同様です。腸活という言葉が流行し、様々な乳製品から様々な名前の乳酸菌を摂ることがもてはやされていますが、腸内で必要なのは乳酸菌だけではありません。腸内細菌の多様性(腸内フローラ)を保つためには、多くの種類の細菌が必要です。
もともと人間は無菌状態で生まれます。成長する中で母親や近親者、環境、食事、ペットとのふれあいなどから細菌を取り込んでいきます。発酵食品(キムチ・チーズ・納豆)を食べることで細菌や酵母を摂取するのはイメージしやすいのではないでしょうか。その他にも生の野菜やフルーツを食べることで土壌の微生物を取り入れることもできます。
ところが滅菌加工された食品ばかりをとりつづけていると、腸内細菌のバランスも壊してしまうのです。
時と場合により、人間に悪さをする菌を排除することは大事ですが、なにも悪さをせず、むしろ人間と共生し健康を保つサポートをしてくれている菌まで排除してしまうのは問題です。
上手に微生物と共に生きることが健康にとって重要であるということも踏まえて、過剰な清潔信仰や過剰な除菌をしなくても免疫力を高めて生きる健康生活が大切です。